燃料電池車に光 英国のインフラ整備で水素復権へ スタートアップに期待集まる

公開 : 2023.03.02 20:05

英国のスタートアップ企業が年内に国内30か所の水素ステーションを建設・稼働する予定で、燃料電池車の大型トラックやバスに重点を置いています。2027年までに全国ネットワークへと発展させる計画です。

年内に水素ステーション30か所設置

英国のスタートアップ企業Element 2は、年内に水素補給ステーションのネットワークを稼働させる計画である。

ノースヨークシャーのスキップトンを拠点とする同社は、2019年から事業計画を立てており、今後数か月で国内5か所がオープンして運用開始し、その後、年末までにさらに30か所が「運用中または建設中」となる予定だ。

スタートアップ企業Element 2が英国内で本格的な運用を開始する。
スタートアップ企業Element 2が英国内で本格的な運用を開始する。

Element 2の最高技術責任者であるブレンダン・ビルトン氏は、「そうなれば物流会社に対して、約160km間隔の全国ネットワークがあるため、航続距離480~640kmの車両であれば物流的に問題ないと言えるようになるはずです」と述べた。

当初は大型トラックや小型商用車へのサービス提供を想定しているが、トヨタ・ミライヒョンデネッソBMW iX5ハイドロジェンなどの自家用車も利用できるようになる予定だ。

「重要なのは、当社の設備は自家用の燃料電池車に対応しているため、普及に対する準備が整っているという点です。しかし、最近では予測を修正し、自家用車よりも小型商用車の需要が前倒しされています」とビルトン氏は話す。

Element 2が焦点を当てているのはトラックとバスだ。英国では毎日60万台のトラックが走っており、道路交通全体の排出量の18%を占めている。トラックは1日に50kg、バスは20kgの水素を消費するのに対し、自家用車はわずか1kgしか消費しないため、ビジネス上合理的な判断だ。

現在、水素1kgあたりの価格が20%の付加価値税込みで15ポンド(約2450円、燃料税なし)であることを考えると、1000台のトラックが水素に移行するだけで、1日あたり75万ポンド(約1億2280万円)の収益となる。

ビルトン氏は「補給ステーションに十分な水素が供給されるのであれば、当社はこの方法で十分な収益を上げることができると早くから考えていました」と言う。

これまでElement 2は650万ポンド(約10億円)という比較的控えめな投資で急速に進展してきたが、今年中にさらに2回、合計1億ポンド(約160億円)の資金調達が開始され、最終的には2027年までに投資額が10億ポンドに達する見込みとなっている。

バッテリー式EVとの共存も可能

水素燃料電池は1990年代半ばから未来の技術と目されてきたが、カーボン・ゼロ政策により大型トラックへの導入が加速し、小型の商用バンやピックアップトラックにも広がっていくはずだ。

英国では自家用車、商用車ともにEVへの移行がメインとなっているが、燃料電池車の水素補給のスピードは見過ごせない魅力である。

バッテリー式EVと異なり、水素は補給スピードの速さが大きなメリットである。
バッテリー式EVと異なり、水素は補給スピードの速さが大きなメリットである。

「物流事業者の話を聞くと、主に都市部での運送業務の約30%はバッテリー式EVで対応できるようです。それ以外の業務では、内燃機関の代わりになるのは燃料電池です」とビルトン氏は語っている。

エセックス州ティルベリーに拠点を置く英国のスタートアップ企業Tevvaは、7.5トンクラスの「ハイドロジェン・エレクトリック」というモデルを販売している。5kgの水素燃料電池レンジエクステンダーと112kWhバッテリーを組み合わせ、570kmの航続距離を持つ商用車だ。

米国のニコラは2024年に欧州市場参入を計画しており、イヴェコ、ヒョンデ、メルセデス・ベンツトヨタボルボなどの既存トラックメーカーも水素技術に取り組んでいる。

トヨタは、英国政府の資金援助を受けてリカルドと提携し、燃料電池で走るハイラックスを開発中で、ダービーシャー州のバーナストン工場で小規模生産する計画である。

パンデミック前の英国におけるピックアップトラックの販売台数が年間平均5万3000台、小型商用車が年間約30万台であることを考えると、BEVと並んで燃料電池車による脱炭素化のチャンスは決して小さなものではない。

Element 2はこのような新たな需要に応えるため、英国内の147のトラックストップにネットワークを集中させている。2027年までに全国を包括的にカバーするためには、1つのトラックストップにつき約5個、合計800個の水素ポンプが必要になると予測する。

昨年7月、同社はA1号線およびM6号線沿いの2か所の用地で計画許可が下りたことを発表した。

トラックストップでは、水素ポンプはガソリン/ディーゼル車エリアから離れた場所に設置される。水素は長さ12mの圧縮ガスタンクローリーによって補給を受ける。タンクは中央の倉庫から牽引され、ポンプと一緒に安全な敷地内に駐車される。安全性に関しては、国際的に使用されている危険物輸送規制ADRに準拠する。

Element 2では現在、350barの圧縮気体水素に重点を置いており、効率と充填スピードのバランスが最も良いとビルトン氏は言う。700barでの運用も可能だが、圧力が高くなると充填時にガスが加熱されるため、高度な冷却システムを使用する必要があり、30分ほどポンプを停止する時間も組み込まなければならない。

他の企業もこの高圧水素を試みているが、常時使用しない場合、オン/オフのスイッチングプロセスが信頼性に欠けることが分かっている。

水素の運搬は専門会社2社に委託しており、当初ディーゼルエンジン搭載のトラックを使用するが、できるだけ早く燃料電池トラックに切り替えたいという。

ビルトン氏は「水素に関する議論では、効率性という1つの問題にばかり目を向けている人がいます。しかし、もっと重要なのは、ディーゼルトラックをよりクリーンで実用的な代替品に置き換えることなのです」と話している。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    AUTOCAR UK Editor-in-chief。オフィスの最も古株だが好奇心は誰にも負けない。クルマのテクノロジーは、私が長い時間を掛けて蓄積してきた常識をたったの数年で覆してくる。週が変われば、新たな驚きを与えてくれるのだから、1年後なんて全く読めない。だからこそ、いつまでもフレッシュでいられるのだろう。クルマも私も。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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