高放射線検出のクルマ、8年間ゼロ 輸出中古車の「放射線量検査」なぜ今も続く? 費用は東電負担
公開 : 2023.03.11 05:45 更新 : 2023.03.11 13:40
3.11東日本大震災による福島第一原発の事故から12年。今でも続いているという輸出中古車の「放射線量検査」の実態を取材しました。
もくじ
ー輸出中古車「放射線量検査」 なぜ始まった?
ー検査ではじかれた中古車 そのまま国内流通も
ー放射線量検査 費用はいまも東電負担
ー測定結果 ほとんどの国で提出不要だった
ー検査いつまで? 「汚染車両」東電が買取したことも
輸出中古車「放射線量検査」 なぜ始まった?
2011年3月11日の東日本大震災による津波などで発生した東京電力福島第一原子力発電所における事故。環境中に放出された放射性物質は海外に輸出される食品や自動車などの輸送機器にいたるまで、さまざまな影響を及ぼしてきた。
原発事故から12年が経過した現在、輸出中古車の放射線量はどのような状況になっているのだろうか?
輸出中古車の放射線量測定を2011年9月から2023年3月現在も全量検査をおこない、その結果を毎週公表している川崎市の例を紹介してみたい。
なお、昨今は毎週3000~4000台以上が検査を受けているが2014年7月を最後に通報基準値対象となるケースはずっとゼロが続いている。
川崎市では市の公式サイトにて、東日本大震災関連情報の1つとして「川崎港における中古自動車等の測定結果」を公開している。
契機となったのは、2011年6月29日に川崎港東扇島外貿ふ頭荷さばき地において、輸出予定の中古自動車から、62.60マイクロシーベルト/時の放射線量率が測定されたことである。
当時の様子に詳しい中古車輸出業者は振り返る。
「当時発覚して大きな騒ぎになりました。これがきっかけで港運協会から輸出業者に要請をおこない、強制的に放射能検査を始めることになりました」
「原発事故から数か月の時ですから高い数値が出たのでしょう。福島で汚染された1台が偶然港で発見されたということです」
62.60マイクロシーベルト/時とはかなり高い放射線量率であるが、この件を機会に川崎港における中古自動車などの取扱の安全対策強化が図られることになった。
輸出先国の対応というよりは、港湾関係者や川崎港の安全を確保する意味合いが強い。
そして2011年8月26日に川崎市と川崎港運協会との間で「中古自動車等の放射線量率の測定に関する覚書」を締結。
港湾施設に搬入される中古自動車などについては、荷主の責任によって自主的な全量検査がおこなわれることになり、川崎市は川崎港運協会から毎週受けた報告内容を公式サイトで公開することになった。
検査ではじかれた中古車 そのまま国内流通も
川崎市の公式サイトにて公開されているデータを見ると、最後に通報基準値(5マイクロシーベルト/時)を超えた測定結果が出たのは2014年7月のことで、それからずっと9年近く川崎港から輸出する中古車においては測定結果に問題はない。
なお、検査ではじかれたクルマはその後どうなるのか?
これは原則として運送事業者が引き取って「荷主」に返される。過去の例をみてみよう。
2014年7月10日午前10時半頃に川崎区東扇島中古自動車取扱事業者敷地内の中古車(フロントグリル付近)から最大値9.00マイクロシーベルト/時が検出されているが、資料によると「午前11時頃に運送事業者により引き取られた」と記載されている。
検出からわずか30分で引き取られるという素早い対応がなされている。そして、引き取られた後、基準値以上が検出された中古車はどういう扱いを受けるのか?
国内大手中古車輸出業者の担当者は以下のように話してくれた。
「規定値以上の放射線が確認された場合、荷主(輸出業者)が引き取ることになります。そのままでは輸出ができませんが、引き取った輸出業者によって除染して放射線量が基準値以下になるまで続ければ再度輸出の手続きも可能でしょう」
「また除染はせず、そのまま国内のオークションに出すケースもありますね。オークション出品の際には放射線量の測定義務もなければ、出品禁止となる基準値なども設定されていませんから」
ということで、基準値以上が計測され輸出が不可能となった中古車は運送事業者や輸出業者に引き取られ、除染して再度計測→輸出(海外で高値が付くような希少な日本車などはこのパターンが多いと考えられる)か、国内中古車市場で一般の中古車と同様に流通するようである。