最初から最高だった メルセデス・ベンツSクラス W116 280SEから450SEL 6.9まで 前編
公開 : 2023.04.08 07:05
安全で高速で頑丈。ラグジュアリー・サルーンの基準を打ち立てた初代Sクラスを、英国編集部が振り返ります。
一途なブランド信者を生み出したW116型
今から半世紀前、1972年に発売された初代メルセデス・ベンツSクラスは、一途なブランド信者を生み出した。ドイツ・シュツットガルトの技術力を、改めて知らしめた存在だった。
W116型はより速く、より静かで、より美しかった。好き嫌いは別れたかもしれないが、ここまで完成度が高く現代的な設計の4ドアサルーンは、同時期には存在しなかった。
発表は1972年のドイツ・フランクフルト・モーターショー。当初は280Sと280SE、350SEでスタートし、1980年にW126型へバトンタッチするまでに、47万台以上が公道へ降り立っている。
人気の獲得とともにエンジンのバリエーションは増え、最終的に2.8L直列6気筒にはキャブレターとインジェクションを設定。V型8気筒のシングルカムには3段階の排気量が設けられ、3.0L直列5気筒ディーゼルターボも北米限定で用意された。
W116型の開発が始まったのは、1960年代半ば。フリードリッヒ・ガイガー氏が手がけたスタイリングは、1969年に決定していた。先代に当たるW108型よりボディサイズは長く広く、ひと回り成長していた。
見た目の特徴といえた、二重のバンパーは継続。フロントガラスには雨水を気流でそれさせるディフレクターを備え、後続車が発見しやすいよう、大きなテールライトには汚れを防ぐリブが与えられていた。
乗員を危険から遠ざける高級サルーン
ホイールベースはW108より約125mm延長されたが、低めの全高と寝かされたフロントガラス、全面的に向上した安全性などが影響し、車内空間は拡大していなかった。追突時に備えるべく、燃料タンクは荷室のフロア下からリアシート直後へ移動されていた。
約100kg増しの車重と引き換えに、ルーフやピラー、ドアなどは頑丈さを増していた。1978年には同社として初めて、アンチロック・ブレーキシステム(ABS)を標準で装備。シートベルトはもちろん、応急処置キットや三角表示板も最初から付いていた。
その結果、Sクラスは安全な移動手段として広く認知された。乗員を危険から遠ざけるラグジュアリー・サルーンといえた。
パワーステアリングも標準。安定性を高めるゼロ・オフセットのステアリング設計が与えられ、アンチダイブ機能を備えるダブルウィッシュボーン式のフロント・サスペンションと組み合わされている。
リア・サスペンションは、トレーリングアーム式を採用。それまでのスイングアクスル式から一新されていた。
トランスミッションは、280には4速マニュアルか4速オートマティックを設定。V8エンジンには、3速オートマティックが組まれた。
リアシートでくつろぎたいオーナーのために、1973年にはロングホイールベース版の450SELが登場。オーバーヘッドカムの4.5L V8エンジンが積まれ、350SEより増加した重量を補っている。