中国BYDバス「六価クロム」報道のその後 三菱ふそうは使用しているのにBYDはなぜNG? 日野ポンチョZ EVどうなる?
公開 : 2023.03.26 05:45 更新 : 2023.03.27 21:41
六価クロム使用、三菱ふそうはOKでBYD製日野ポンチョはなぜNG? 六価クロム報道のその後を取材しました。
もくじ
ー日本では法規制なし 「六価クロム」は危険?
ー発がん性 でも乗車時は「毒性ゼロ」?
ー自工会で規制も三菱ふそうは使用しているワケ
ー「六価クロム」報道 BYDジャパンの対応は?
ー一時運行休止のBYDバスは続々運行再開!
ーもっとも厳しい 「EU ELV指令」とは?
日本では法規制なし 「六価クロム」は危険?
水銀、鉛、カドミウム、六価クロム。これら4種の重金属は自動車への使用が厳しく制限されている。
欧州ELV(廃車)指令を筆頭に、中国版/韓国版ELV、そして日本では自動車メーカーで組織される一般社団法人日本自動車工業会(以下、自工会)の自主規制で使用が完全に禁止されるか一定量、特定部品への使用に制限されている。
そして、これら4重金属の中で2月下旬からの約1か月間、日本の自動車界、EV界に大きな衝撃を与えたのが「六価クロム」である。
2月16日に日野自動車がBYDからOEM供給を受けて製造販売する予定だった小型電気バス「日野ポンチョZ EV」(BYDの小型電気バス「J6」がベース)の発売凍結を発表して大きな騒動となった。
一般メディアも含めて事情に詳しくない人から見ればBYDが「禁止されている六価クロム使用を隠していたのか!」「中国製の自動車は危険だ!」などBYDがとても悪者のように思えてしまうかもしれないがそういうことではない。
後述するが三菱ふそうの大型バスや大型トラックなどに現在もBYDバスと同じく金属部品の硬化処理や防錆などのために六価クロムが使われている。
なお、日本には自動車の部品に六価クロムの使用を禁ずる法令や規制はない。
あるのは自工会が定めた「2008年以降に新型車として生産、販売される自動車(乗用車・大型車含む商用車)には六価クロムを使用しない」という自主規制だけである。
自主規制であるため「六価クロムの使用禁止」の対象となるのは自工会の会員会社が製造販売するクルマ、またはOEM供給を受けて会員会社のブランドで販売する車両である。
それゆえに、同じBYDが製造する電気バスでも、
・自工会メンバーではないBYDブランドで販売する「J6」は自工会自主規制の対象外
・自工会メンバーである日野自動車が販売する「日野ポンチョZ EV」は自主規制の対象
となる。
発がん性 でも乗車時は「毒性ゼロ」?
なぜ六価クロムは自動車部品への使用に関して世界中で厳しく規制されるのか?
自工会の自主規制ふくめ欧州や中国、韓国、米国などでの規制はいずれも「廃車時の処理」を考慮した規制である。
金属部品の強化や防錆を目的とした鍍金(メッキ)に使われる六価クロムは発がん性物質であり、毒性が強い。
廃車時の処理を適正な環境でおこなわないと、有害物質が土壌に流れ出すなどして環境や人体に悪影響を及ぼす。そのため自動車製造時の段階から六価クロム不使用を推進することになった。
毒性が問題となるのは「廃車時」(リサイクル処理など)であることはわかったが、それでは普通に自動車として運転したり乗車したり、メンテナンスをしている際に悪影響はないのだろうか?
これについて自工会に聞いたところ、「弊会では自動車使用時の人体や環境への影響については調査しておりません」とのことであった。
そこで、六価クロムを扱い、70年以上の歴史をもつメッキ業者に尋ねてみたところ……「最も重要な点は『クロム』という物質は金属化しているクロムと化合物状態のクロムとで使用場所や性質、毒性も変わるということです」
「1.金属クロム(金属になっているクロム、メッキ皮膜になっているクロム)はゼロ価のクロムですので、廃棄時も無害です。人の体が触れるような部分(車室内など)の部品や一般家庭で使うステンレス製品、サスペンションに使われるピストンロッドにも使われています」
「2.クロム化合物(亜鉛メッキ+クロメート皮膜処理)は三価と六価のクロムがあり、六価のクロム化合物(今回の記事内でいう「六価クロム」)は有害です」
「『亜鉛メッキ』は亜鉛から成るメッキ皮膜の上に、仕上げとしてクロメート皮膜と呼ばれる薄いクロム化合物から成る皮膜をつけます。この皮膜はクロム化合物(金属クロムではない)となるために、仮にそれが六価クロメート皮膜の場合は酸性雨などによって溶出の危険性があります」(前述のメッキ業者)との答えだった。
欧州ELV指令や自工会が自主規制しているのは「2」のクロム化合物で、廃車時、リサイクル時に適切な処理をしていれば何の問題もないが、不正に廃棄された車両が長年放置されているような場所だと、酸性雨などによって六価クロムが溶出し、雨が降るなどして流れ出し、土壌にしみこんで人体や環境に悪影響を与える危険もある。
すべての車両が適切な廃車処理をされるとは限らないため、それなら最初から六価クロムを使用するのはやめようというのが「六価クロム使用禁止」の考え方である。