トヨタの「GRスポーツ」、実際どう違うの? アクアとヤリス・クロスを検証 試乗/価格編

公開 : 2023.03.28 18:34

「GRスポーツ」シリーズに加わった「アクア」と「ヤリス・クロス」を試乗レポートします。標準車両と価格も比べてみましょう。

アクアGRスポーツ どんな感じ?

(「試乗/価格編」ではインプレッションを中心にお届けしよう)

元々アクアは、GA-Bプラットフォーム車では最も穏やかな乗り味となっているが、「アクアGRスポーツ」もその基本特性を引き継いでいた。

アクアGRスポーツ(エモーショナルレッド)
アクアGRスポーツ(エモーショナルレッド)    宮澤佳久

高速域での挙動安定やラインコントロール性などの高負荷領域での安心感と扱いやすさを強化した特性。

操舵初期や増舵での反応あるいは切れ味はそれ程でもないが、挙動にもコントロール感覚にも揺らぎが少ない。“面倒がない操りやすさ”とでも言いたくなる。

サスストロークを使って安定を稼ぐタイプなので乗り心地に荒さがなく、細かな突き上げもスポーツモデルとしてはこなれている。

ハイアベ対応型のアクアと捉えれば分かりやすい。

ヤリス・クロス 標準車と比べると?

「ヤリス・クロスGRスポーツ」のフットワークはヤリスに近づけた印象。

SUVパッケージを意識させないホットハッチ的な小気味よさや軽快感を出している。

ヤリス・クロスGRスポーツ(ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ)
ヤリス・クロスGRスポーツ(ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ)    宮澤佳久

高い重心や重い車重による挙動の増加・応答遅れをドライバーに意識させない。

オンロード志向のSUVではありがちな手法だが、コンパクトサイズと相まって力でねじ伏せるような強引さはない。だからこそ“ヤリス的な軽快感”もある。

もっとも、乗り心地に関してもヤリス的荒さを意識させる。

荒れた路面では軸周りの細かな振動や突き上げが目立つ。それも好意的に解釈すればスポーツモデルらしさではある。

妙な喩えだが標準モデルが「ヤリス < クロス」ならヤリス・クロスGRスポーツは「ヤリス > クロス」なのである。

2つのGRスポーツ 作り込みの違い

動力性能については、アクアGRスポーツはベース車と同等。

大出力に強い積層電池の利点を活かした即応性と力感が長所で、昂揚感では物足りないが良質な動力性能である。

ヤリス・クロスGRスポーツの前席内装(ブラック)
ヤリス・クロスGRスポーツの前席内装(ブラック)    宮澤佳久

対してヤリス・クロスGRスポーツは、踏み込み時の加速立ち上げ等で多少切れ味を増加。

エンジン回転数も含めてスポーティな印象も多少深まっているが、パワフルとも言い難く、多様な状況下での扱いやすさを主眼とするのはベース車と変わらない。

「GRMN」は対象外としても「GR」系に準じたスポーツ性を求めるならアクアGRスポーツもヤリス・クロスGRスポーツも薄味に過ぎる。

ただ、その薄味具合が両車の大きな魅力でもある。だが、薄味の妙味は価格とのバランスが難しい。

約35万円 価格差を検証 

アクアGRスポーツは、ベース車(G)に対して36.5万円高、標準系最上級の「Z」の19.5万円高。

同様にヤリス・クロスGRスポーツは試乗したハイブリッド車では、ベース車対比35.6万円高、「Z」対比14.4万円である。

ヤリス・クロスGRスポーツ(ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ)
ヤリス・クロスGRスポーツ(ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ)    宮澤佳久

フレームやサスの改良等も考慮すれば、一般的なカスタマイズカーに比べると随分と割安な価格設定だ。

この辺りは他のカタログモデル同様の生産ラインで生産される強味であり、コスト的にはカスタマイズカーと言うより特別仕様に近い。ゆえに、控え目にスポーツ性を高めてカジュアル&プレミアムを深めた意義も強まる。

もちろん、実用性能だけでコスパを量れば割高なのは当然。買い得に思えるのは嗜好的な要素を加味してこそ。

標準系ではファントゥドライブの要素がちょっと物足りないとか、高速・長距離を走らせる機会が多い等々の“一味グレードアップ”を求めるなら、スポーツ濃度も価格も絶妙なバランスだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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