英国一の大富豪 「好き」が高じて自動車会社設立 ジム・ラトクリフ独占インタビュー

公開 : 2023.04.29 18:25

化学大手イネオスの創設者ジム・ラトクリフ氏は、総資産6兆円以上と推定される英国の大富豪。クルマ好きが高じて、無骨なSUVの製造まで始めてしまったという彼の野心に迫ります。

総資産6兆円以上 リスクは恐れない

英マンチェスターの公営住宅で育ち、自力で身を立てたジム・ラトクリフ氏を見ていると、「マナーを守れ」というのは予想外のマントラであるかもしれない。

化学大手イネオスの社員は全員、元気な挨拶で彼を迎えるようアドバイスされ、上級管理職は業績について残酷なほど正直であることが求められている。彼の会社の組織は無駄がなく、人事も同様だ。威張ったり、でたらめを言ったりする人は応募しなくていい。気概、厳格さ、そしてユーモア、これが彼の提示する条件だ。

イネオス・グループの創設者ジム・ラトクリフ氏
イネオス・グループの創設者ジム・ラトクリフ氏

ラトクリフ氏は70歳にして英国一の富豪であり、その資産額は400億ポンド(約6兆6800億円)と推定される。しかし、その地味なルーツと、比較的遅い時期に大成功を収めたという事実(46歳でイネオスを設立)から、彼がしっかり地に足を着けた人物であることがわかる。

「失敗は怖くない」と彼は笑う。

どう考えても、彼は計算されたリスクを取るのが好きな人間だ。イネオスの最初の買収は、高利回り債権に支えられたもので、ICIやBPのような企業から投げ出された事業であった。大型SUVのグレナディアの発売も、その例に漏れず、すでに10億ポンド以上が費やされ、1台目の納車が始まるまでに少なくともその3倍の資金が投入されているはずだ。

「銀行の残高を見て、どうしろと言うんだい?」

驚くほどエネルギッシュな70歳

なぜ本業だけでなく、自動車をはじめF1、サイクリング、セーリング、サッカーなど多くの事業を手がけるのかと尋ねると、彼は苦笑いを浮かべながら言った。「楽しいからやっているんだよ」

スローダウン? なぜ? 定年退職? 彼はニコニコと笑う。後継者計画? 必要ない。少なくとも20年は生きられる。スキー、釣り、オートバイ、クルマやボートで荒野を横断する奇想天外な冒険が大好きな彼に、生命保険はどうだろう?

イネオス・オートモーティブが発売するオフロード向けSUV、グレナディア
イネオス・オートモーティブが発売するオフロード向けSUV、グレナディア

「勧誘しても無駄だよ。わたしはやりたいことをやめないから、保険には入れてもらえないだろうね」

今年は、イネオス・グレナディア、1920年代のベントレー、1952年式のランドローバーで、仲間と一緒にモンゴルから北京まで、約2900kmを走破したいそうだ。

彼の自動車コレクションを見せてもらった。1996年のミハエル・シューマッハのフェラーリ、250 GTカリフォルニア・スパイダー、275 GTB、ル・マンのマクラーレンF1 GTR、そして1920年代のベントレーをはじめとする「古いものがいくつか」ある。

「もっといい投資先があるのでは」と筆者は微笑む。すると、彼はこう反論した。「気に入ったから買ったんだ。好きものだから、売ることもない。投資ではないんだ」

もちろん、これらはほんの一面に過ぎないが、彼の人物像がよくわかるし、彼がイネオス・オートモーティブに資金を提供するだけでなく、それを定義していることを強調している。成功は確実ではないし、失敗もあり得る。しかし、そのすべてが彼自身の、驚くべきエネルギーで進められていることに疑いの余地はない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジム・ホルダー

    Jim Holder

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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