速さで勝る フォード・フォーカス ST 楽しさで勝る トヨタGR86 比較試乗 前編

公開 : 2023.05.13 09:45

台数が制限され、プレミア価格で取引される英国のGR86。サーキットへ軸足を振ったフォーカス STとの比較で、魅力を探りました。

周回を重ねるほど引き離されるGR86

2速でも3速でも構わない。グレートブリテン島の西、アングルシー・サーキットでトヨタGR86のエンジンをレブリミットまで回す快感は、かえがたいものがある。

優れたシャシーとは、短時間で親しくなれた。2速へシフトダウンし、180度向きが変わるヘアピンカーブへ突っ込んでみる。だが、先をゆくフォード・フォーカス STトラックパックとの差は縮まらない。

グリーンのフォード・フォーカス STトラックパックと、ホワイトのトヨタGR86
グリーンのフォード・フォーカス STトラックパックと、ホワイトのトヨタGR86

同僚のリチャード・レーンは、グリーンのホットハッチを攻め立てる。間違いなく向こうが速い。周回を重ねるほど、GR86との距離は長くなる。タイトコーナーでは距離が縮まったように感じられるが、実際は徐々に引き離されていく。

今回の試乗は、現実的な英国価格で近似する2台による比較。サーキットを中心としたが、公道にも時間を割いた。

自動車メディアでは珍しくない内容といえる。だが、どちらも新鮮な驚きを与えてくれる貴重な存在だ。本来なら、GR86の方が約1万ポンド(約161万円)お手頃なのだが、現在の英国では事実上、4万ポンド(約644万円)近く準備しなければ入手が難しい。

フォーカス STトラックパックの英国価格は、3万9950ポンド(約643万円)。最高出力280psを発揮する、通常のフォーカス STは約3万7000ポンド(約595万円)からなのだが、特別なパッケージが装備され、そのぶんお高い。

労働者階級のための高性能モデル

フェイスリフトを受ける前までは、フォーカス STエディションという名で、これと近い構成のパッケージが提供されていた。シリアスな走りとは裏腹に、名称はかなり控えめといえた。

最新のSTトラックパックの場合、選べるのは6速MTが組まれた5ドア・ハッチバックのみ。通常より10%軽量化されたアルミホイールを履き、専用コンパウンドのピレリPゼロ・タイヤが路面を掴む。外観では、縁がブラックに塗られたSTのロゴが目印になる。

フォード・フォーカス STトラックパック(英国仕様)
フォード・フォーカス STトラックパック(英国仕様)

目玉となるのが、フロント・ブレーキディスクが約10%大きくなり、車高が10mm落ちるKW社製の車高調サスペンションが装備されること。減衰力は収縮で12段階、伸長で16段階から選べる。ジャッキアップや、内装トリムの取り外しが必要ではあるけれど。

それにしても、ホットハッチの値段は高くなったものだ。残価設定金額も高いため、毎月の支払額はそこまで上昇していないとしても。

インフレは進んでいるし、半導体は供給が追いついていない。排気ガスに含まれるCO2規制に伴い、販売台数も限られている。理由はいくつも存在する。

ハッチバックのキング、最新のホンダシビック・タイプRは、英国では約4万7000ポンド(約756万円)で売られている。そのおかげで、フォードはお手頃なホットハッチだと主張できている。労働者階級の高性能モデルではあるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    英国編集部エディター・アト・ラージ
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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