細かな改良で導いた別次元 アストン マーティンDBS770アルティメットへ試乗 DB12への期待 前編

公開 : 2023.05.20 08:25

DB11をベースにしたDBSの最終仕様となる、アルティメットへ英国編集部が試乗。DB12への期待が大きく膨らむと高く評価します。

モダン・アストンの象徴といえるDBS

グレートブリテン島の南西部、コッツウォルズの丘陵地帯には、アストン マーティンDBS770アルティメットの実力を引き出すのに相応しいルートが広がっている。DBSスーパーレッジェーラからの進化ぶりを、じっくり確認することができる。

3速や2速へシフトダウンする、きついカーブが連続して待ち構えている。アスファルトは、イン側が滑らかでも、アウト側は波打っているということが珍しくない。表面を砂が薄く覆っている区間もあれば、水たまりが残っている場所もある。

アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)
アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)

AUTOCARの試乗評価では定番といえるエリアで、筆者もこれまで数え切れないくらい走ってきた。従来のDBSが、難なく通過できることは確かめている。しかし、必ずしも常に爽快に飛ばせるわけではなかった。

フロントノーズは長くボディはワイドで、意のままにコーナーへ食らいつかせていける自信を抱きにくかった。反応に若干の曖昧さがあるステアリングと、グランドツアラー的な快適志向のサスペンションが、鮮明な感触に水を指していた。

現代のアストン マーティンの象徴といえるDBSスーパーレッジェーラだが、コーナー出口での鋭い脱出加速の姿勢を整えるのに、僅かな時間も必要としていた。V型12気筒エンジンが本気を出すと、リアアクスルは一時的に耐えきれず、身震いする瞬間も。

最大トルクは91.6kg-mと極太。惜しみなく発揮させるには、相応の覚悟も求められた。

5.2L V型12気筒ツインターボは770ps

しかし、最新のDBS770アルティメットはマナーがまるで異なる。緻密に、意味のある改良が全体的に施されている。その仕上がりは、別次元なほどに高い。

トリッキーなカーブへ鋭く滑らかに食らいつき、瞬間的に安定した状態へ推移する。路面の不整を見事になだめ、ストレートへ向けたフルスロットルをドライバーへ促す。

アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)
アストン マーティンDBS770アルティメット(欧州仕様)

加えて、どんな道でも乗り心地は安楽。コーナリング性能を大幅に高めつつ、従来のDBSスーパーレッジェーラ以上に平穏に長距離をこなせるだろう。

誤解を恐れずに表現するなら、トヨタGR86へ増強剤を限界まで注入し、BMW M5 CSと同等の水準まで能力を引き上げたようなもの。素晴らしいクルマが、一層素晴らしくなったといえる。

アストン マーティンがDBS770アルティメットへ施した内容は興味深い。ワンオフモデルのヴィクターからインスピレーションを受けた、ゴージャスなアルミホイール1つ取ってみても、際立つ訴求力がある。

5.2LのV型12気筒ツインターボエンジンはブースト圧を高め、最高出力が770psまで上昇した。DBSスーパーレッジェーラ比で45psの増強となり、同社の量産モデルとしては過去最強に位置する。

最大トルクは変わらないが、理由はZF社製の8速ATが許容できなくなるため。それでも、1770kgのボディをロケットのように加速させるには充分以上。0-100km/h加速は、3.2秒がうたわれる。

ちなみに、カタログ上の車重は通常のDBSと変わらない。だが実際は、770アルティメットの方が僅かに軽いという。

記事に関わった人々

  • リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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