1960年代の英国へ衝撃 ローバーP6 英国版クラシック・ガイド 上級サルーンをリード 前編
公開 : 2023.05.28 07:05
前衛的な設計と容姿で高評価を得た、ローバーの主力モデル、P6。日本へも少数が輸入されたサルーンの魅力を、英編集部が振り返ります。
当時の英国へ大きな衝撃を与えたP6
1960年代の英国へ大きな衝撃を与えたのが、ローバーP6だ。先進的なボディ構造に四輪ディスクブレーキ、オールシンクロのMT、高度なサスペンション、オーバーヘッドカム(OHC)・エンジンなどが採用され、同社の成長を力強く後押しした。
その頃、ランドローバーがヒットしていたことで、P6も釣られるように支持を伸ばした。グレートブリテン島の中部、ソリハルの工場には1000万ポンド以上が投資され、生産能力は2倍に拡大された。
次期モデルへ向けた、新しいボディ構造の開発が始まったのは1953年。強固なバルクヘッドを採用し、重量物を車体の中央へ集めるレイアウトが検討された。
リア・サスペンションはド・ディオン式。リジッドアクスルの一種だが、独立懸架式よりバネ下重量を軽く抑えることができた。
フロント・サスペンションは、トランスバース・リンクを採用した独立懸架式。珍しい形式といえたが、これは当時のローバーが開発していた、ガスタービン・エンジンの搭載を視野に入れたものだった。結果的に、量産には至らなかったが。
ボディは、静電気を用いた粉体塗装で仕上げられた。従来の単純なスプレー式では約60%の塗料が無駄になっていたのに対し、約2%へと大幅な減少を実現した。
当初設定された2.0L 4気筒エンジンのシリンダーは、ボアとストロークがほぼ等しいスクエア比率。ビストンの上部には、半球状の燃焼室が設けられていた。オーバーヘッドのカムは、2本のダブルチェーンが駆動した。
メディアも高く評価した操縦性と乗り心地
モダンな印象を強めるフロントグリルには、押出成形されたアルミ材を使用。ダッシュボードは、レザー調の加工が施されたプラスティックによる一体成型で、フェイクウッドのトリムが雰囲気を高めた。
シートは座り心地が良く、位置の調整域も広かった。ステアリングホイールもチルトが可能で、体型に応じた運転姿勢を提供した。ヒーターやベンチレーションは機能的で、快適な車内空間を保った。
ローバーP6 2000は1963年にリリースされ、完成度の高さを自動車メディアは評価。快適性が最大の強みで、当時のモーター誌は、価格帯に関係なく欧州車でトップ3に入る乗り心地だと称賛している。
シリーズ1のP6へ1966年に追加されたのが、高性能版の2000TC。圧縮比は10:1へ上昇し、ツインSUキャブレターを搭載し、ハイオクガソリンの指定だった。少々尖ったファミリーサルーンといえた。
1968年、上級グレードとして3.5L V8エンジンを積んだ3500Sが登場。優れた動力性能と合理的な燃費、秀でた操縦性や乗り心地の良さで、こちらも高い評価を集めている。
1973年には、洗練性を高めたシリーズ2が登場。4気筒エンジンはアップデートされ、オーバースクエア構造となり排気量は2.2Lへ拡大。P6 2200を名乗るようになった。
トルクが太くなったことで走りは粘り強く、多くのドライブトレインも強化。2000TCはややピーキーだった印象だが、2200TCでは扱いやさも向上していた。