還暦のパゴダルーフ メルセデス・ベンツSL(W113型) 時代を超越する優雅 前編
公開 : 2023.06.03 07:05
2023年で誕生から60年を向えるW113型の2代目SL。唯一といえる特有の魅力を、英国編集部が振り返ります。
知的な女性と親和性が高いW113型
クラシックカーを紹介する時、時代を超越した、といった表現がしばしば用いられる。1963年から1971年まで製造されたW113型のメルセデス・ベンツSLは、まさにこの言葉がピッタリ当てはまるモデルだと思う。
新車時に生まれていなかった読者でも、このコンバーチブルに対しては恐らく特別な印象を抱くと思う。その美貌を目の当たりにしたら、クルマ好きであれば本能的に足が向い、鑑賞し始めるのではないだろうか。
コンパクトなスポーツカーであり、オープントップのグランドツアラーでもあった2代目SLは、その後のメルセデス・ベンツが生み出す2シーターモデルの方向性を決定づけた。230から250、280へ進化を続けながら。
一般的なサルーンより高速でありながら、攻撃的な雰囲気は控えめ。インテリアは上質で、穏やかな気持ちでの運転を許した。高級ブランドが立ち並ぶ繁華街を優雅に流せ、郊外の自宅まで短時間で戻ることができた。小柄で機敏で、訴求力に溢れていた。
W113型の特徴といえるのが、知的な女性と親和性が高いこと。自身を引き立てる、アクセサリーのような存在でもあったといえる。
銀幕では「ダーリング」のジュリー・クリスティ氏や、「いつも2人で」のオードリー・ヘップバーン氏が、エレガントにステアリングホイールを握った。R107型へモデルチェンジしていた1980年の「長く熱い週末」でも、ヘレン・ミレン氏が魅力を振りまいた。
端麗さと品格をたたえたスタイリング
シリアスなドライバーズカーとして、高水準な走行性能も高く評価されてきた。伝説的レーシングドライバーのスターリング・モス氏も、250 SLを愛していたという。富裕層からは、オープンのセカンドカーとして親しまれつつ。
そもそも初代のSLは、職人によるハンドビルドのスペースフレーム・シャシーに高性能な3.0L直列6気筒エンジンを搭載した、ガルウィングのスーパーカーだった。同じ見た目で、お手頃な1.9L直列4気筒エンジン版も存在したが。
一方の2代目は、量産サルーンの技術を巧みに利用。実用的で身近な上級コンバーチブルとして、われわれとの距離を縮めていた。
そんなW113型が発表されたのは、1963年のスイス・ジュネーブ・モーターショー。ワイドなグリルと縦に長い専用デザインのヘッドライトを備え、初代300SLの勇ましさと、女性的な雰囲気の190SLとの、見事な融合を果たしていた。
スタイリングを描き出したのは、カーデザイナーのポール・ブラック氏。ジャガーMkXよりトレッドが広いワイドなボディは、他に例がない端麗さと品格をたたえていた。
タイヤは、コンチネンタル社が専用に開発した左右非対称パターン。落ち着いた佇まいながら、確かなロードホールディング性能を備えることを足もとで主張した。SLの方向性を表すように。
画像 パゴダルーフのメルセデス・ベンツSL(W113型) 初代300 SLにR107型、SLS 最新AMGも 全122枚