あまり「速くない」グループBマシン シトロエン・ビザ・トロフィー(1) NAの1219cc 4気筒は104ps

公開 : 2024.07.13 17:45

命がけといえた、世界ラリー選手権のグループB時代に誕生したビザ・トロフィー 1219cc 4気筒から104psを発揮 徹底的な軽量化で695kg ラリーでの活躍を切り拓いた1台を英編集部がご紹介

グループBマシンらしくない速さ

苦痛と快楽は、どうやら近いところにあるらしい。ロールケージをすり抜け、深いレーシング・バケットシートへ身体を押し込む。ハーネスを締め、姿勢を整える。

車内は蒸し暑い。アクセルペダルを踏みキーをひねる前から、額が汗ばんでいるのがわかる。1度目は失敗。2度目でくすぶり、3度目の正直。グループB公認のラリーマシンが、再び生気を取り戻した。

シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)
シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)

当然のように轟音。右足へ力を込めるたび、周囲を張り詰めたサウンドが満たす。陽気なイベリア半島を歩く観光客が、何事かと振り返る。笑顔に変わり、スマートフォンのレンズがこちらへ向けられる。

少し温まったところで、シフトレバーを倒し1速へ。ちょっと動きが渋い。

クラッチペダルを緩め、オフロードコース目掛けて発進。木々の間の狭いルートを、砂埃を巻き上げながら加速する。サスペンションは意外と柔軟。シトロエンだから当たり前かもしれないが、しっとり落ち着いているわけではない。

かなり忙しいが、ひたすら楽しい。ドライバーとのコミュニケーション力も高い。充分にすばしっこいが、グループBマシンらしくないのが際立たない速さだ。

その時代を知っている人なら、キリキリにチューニングされたハイパワーエンジンと、モンスターのような咆哮、コースから弾き飛ばされそうなスピードを想像するだろう。しかし、シトロエン・ビザ・トロフィーは違う。

1982年に設けられた自由度の高いグループB

小さなハッチバックには、ツインキャブレター付きの1.3L 4気筒エンジンが載っている。ボディにレッドとブルーのストライプがあしらわれた、本格的なラリーマシンだ。ちゃんとグループBの規格にも則っている。

実のところ、改造範囲が広かったこのカテゴリーは、スーパーマシンだけが該当するものではなかった。国際自動車スポーツ連盟の決定を受け、ラリーを主催したロンドンの団体、コンバース・スポーツ・イニシアティブ(CSI)は、1982年に新規則を発表した。

シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)
シトロエン・ビザ・トロフィー(1982年/欧州仕様)

それまでの量産ツーリングカー・レースに設けられていたグループ1とグループ2は、改造が許されないブループNと、改造可能なグループAへ置き換わった。これらは、5000台以上の生産が要件とされた。

グループ3とグループ4はグループBへ集約。これは、200台以上の生産が求められた。性能を引き上げた、進化版の限定生産も認められた。

グループBカテゴリーは自由度が高く、二輪駆動だけでなく四輪駆動も許され、エンジンはミドシップでも良かった。ユニットの排気量に応じ、15段階のクラスも設けられた。

過給器を積む場合は、通称ターボ係数が掛けられ、該当クラスが決められた。1.4Lエンジンでも、ターボを載せた場合は2.0Lクラスに属した。車重やタイヤサイズなどに、制限も設けられた。

小さなビザ・トロフィーが属したのは、エントリーレベルといえたB9クラス。若いドライバーへ、参戦車両を安価に提供する目的があった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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