ポルシェ911 詳細データテスト MT+NAの快感 公道志向の足回り 遮音性はやや改善の余地あり

公開 : 2024.07.13 20:25

走り ★★★★★★★★★★

エンジンをかけると、この世のロードカーの中でもとくに聞き間違えようがないものに数えられるサウンドに迎えられる。鼻にかかったようで、かすかに金属的なガラガラ音は、ポルシェの自然吸気フラット6ならでは。これに加えて、シングルマスフライホイールによる、不均一でスネアドラムのような響きが耳障りに鳴る。激しく機械的な音で、スポーティながら高級感のあるキャビンで聞くとギャップ萌えを感じる。

MTで自然吸気のスポーツカーを運転する楽しみを邪魔するものは、なにひとつ見落とされていない。ペダルの重さはドンピシャ。味気なく退屈なものではなく、それぞれの位置関係もバッチリ。クラッチのトラベルはかなり長いが、S/Tのシンプルなドライブラインがミートするポイントは、心配するほど狭くない。弾けるようで神経質な525psの911を発進させるのは、ベーシックなボクスターのように直観的。その助けになっているのは軽さだ。

自然吸気+MTは運転の楽しさをもたらしてくれるが、パフォーマンスも最新のDCT車にほとんど後れを取らない。
自然吸気+MTは運転の楽しさをもたらしてくれるが、パフォーマンスも最新のDCT車にほとんど後れを取らない。    MAX EDLESTON

スタートの速さで、人間の限界に挑むのは簡単ではない。1速では、ECUが5000rpmまでしか許容せず、後輪のミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2を圧倒して衝撃的なダッシュを決めることはできないのだ。0-97km/hは公称値どおりの3.7秒だったが、タイヤが十分に温まればもう少しいいタイムが出そうに思える。

おそらくこのタイム、いまどきの同じくらい高価なスーパーカーより1秒かそこらは遅い。しかしながら、この911のレゾンデートルが、数字よりも主観的な要素にあるのは明らかだ。

そうは言っても、2速で64-97km/hが1.3秒というのは、ランボルギーニアヴェンタドールSVJと同等。また、追い越したいけどシフトダウンが面倒くさいような場面に相当する、4速での48-113km/hは6.1秒で、もっとクロスレシオなGT3やGT3RSより速い。とはいえターボSなら、5万5000ポンド(約1133万円)安く、胃の中身が逆流しそうなパフォーマンスを得られる。

自らの手によるシフトチェンジは、もちろん深い満足感を味わえるし、S/T独自のキャラクターともなっている。たしかに、あるテスターはシフトの動きがちょっと短すぎ、このクルマの性格に合っていないという。しかし、ほかのテスターたちはこれが
おおいに気に入った。

確実だが、過度に力のいる動きではなく、思いどおりに決まる。3速に入れようとして1速に入れてしまうようなリスクはほとんどない。ギアボックスはなめらかだ。その証拠に、0-241km/hは18秒ジャストで、少なくとも3度は手動変速を行うのに、GT3のPDK車に0.3秒遅れるのみだ。

エンジンは傑作だ。推進力に関して、この4.0Lユニットは3000rpmまでたいしたことはない。ここで、低いエンジン音に加わる吸気音が激しくなりはじめる。チタンの内部パーツやシングルマスフライホイールが生む高い回転性能は、おそらくゴードン・マレーの最新作のような最高級のクルマでなければ太刀打ちできない。

パワーカーブは完璧なまでにストレートで、アイドリングから8500rpmまで一気に駆け上がる。その上の残り500rpmは、ただひたすら楽しい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

関連テーマ

コメント

おすすめ記事

 
×