アウディ史上最も「空気抵抗」が少ない量産車 新型A6の「Cd値0.21」はどのように実現したのか?

公開 : 2024.09.25 18:05

アウディの新型EV「A6スポーツバックeトロン」では、空力を徹底的に追求し、Cd値0.21というブランド史上最も低い抗力係数を達成した。シミュレーターと風洞実験には膨大な時間が費やされたという。

シミュレーションと風洞実験

ほとんどの人が日常的にあまり考えることのない空気力学。しかし、自動車を走らせるのに必要なエネルギー量に大きな影響を与えている。

空気抵抗は速度の2乗に比例して増加する。わかりやすく言えば、速度が2倍になると、抵抗は4倍になるということだ。そのため、例えば60km/hから120km/hに速度を上げると、空気抵抗は2倍ではなく4倍に増加し、燃料や電気の消費量に影響を及ぼすことになる。

空力試験に臨むアウディA6スポーツバックeトロン
空力試験に臨むアウディA6スポーツバックeトロン

空気を切って進む自動車の抵抗を減らすためには、ボディを「なめらか」な形状にすることが重要だ。そのため、デザイナーと空力エンジニアが協力し、外観の美しさと効率性の間で妥協点を見出すのだ。

長い歴史の中で、量産車の空力に大きな変化をもたらしたのはドイツのアウディだった。1983年、アウディ100は、当時の量産車の中で最も低い抗力係数(Cd値)0.30を記録した。

そして今、アウディは新型A6スポーツバックeトロンで、Cd値0.21という驚異的な数値を叩き出した。アウディ史上最も空力特性に優れた量産車とされている。

この数値はどのようにして実現したのだろうか。初期の設計案が完成した後、アウディの空力開発チームは約1300回のシミュレーションを実施。その後、風洞施設で物理モデルのテストに膨大な時間を費やし、細かい部分の修正を繰り返した。

例えば、当初の設計では、車両前面の空気の流れを改善するエアカーテンの吸気口の外側の縁が、理想よりも少しだけ突出していた。これにわずかな調整を加えていき、空気の流れを妨げないようにした。

フロントグリルの下の冷気取り入れ口も微調整し、小数点以下の改善をもたらした。また、ボディ表面のエッジは空気の流れを促し、特定のエリアの低圧を減らすよう注意深く設計された。

車両底面部のアンダーパネルも非常に重要で、空気がスムーズに流れるよう細かな調整を加えたほか、ホイールのデザインによってさらなる改善を図った。

ホイールは、空気がスムーズに流れていく一種の壁を形成するためにフラットにする必要があるが、外観もシャープすることが望まれる。そこで、プラスチック製のエアロブレードを備えた21インチ・ホイールが理想的とされた。19インチと20インチのエアロホイールも用意されている。

車両の基本的な形状、リアの高さや輪郭、底面部の設計は、Cd値だけでなく揚力にも影響するとアウディは言う。この2つの要素が調和するまで微調整を繰り返し、ついに記録破りの空力形状を実現したのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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