【第1回】サイトウサトシのタイヤノハナシ:スチールベルトコードの角度って?

公開 : 2024.10.16 17:05

はじめまして。今回から「サイトウサトシのタイヤノハナシ」(あまりにタイトルがド直球ですが……)というブログをはじめることになりました。タイヤの試乗を仕事として始めてから30年以上になります。その間に見聞きしたタイヤにまつわるいろいろな話、もちろん新しいタイヤの話題も織り交ぜながら、書き綴ってみたいと思います。以後よろしくお願いします。

試していたのは、スチールベルトコードの角度

R33型日産スカイラインGT-R発売時(1995年)の話です。だいぶ古い話ですが、当時開発ドライバーを務めていた日産テストドライバーにニュルブルクリンクでのGT-R開発秘話をうかがっていた時のこと。

R33GT-Rには245/45R17というサイズのタイヤを採用することになったのですが、当時このサイズはリア用しかなく、前後同サイズを履くGT-R用に新たに開発しなければなりませんでした。テストは過酷で、1周目はコースチェック。2周目で評価。3周目は2周目で違和感があったところを確認。この3周で評価していたのだそうです。

タイヤの中身を、AUTOCAR JAPANブランドのタイヤ(!?)でご紹介。
タイヤの中身を、AUTOCAR JAPANブランドのタイヤ(!?)でご紹介。    きざわるみ

テストしていたのは、タイヤのスチールベルトコードの角度でした。

簡単に説明すると、タイヤは、骨格となるカーカスの上に、両面をゴムで補強したスチールコードのベルトを2枚重ねる構造になっています。このスチールベルトは、回転方向に対して片方に右向き、もう片方に左向きの角度がつけられています。

スチールベルトの交わる角度を1度ずつ変えたものをGT-Rのテスト車両に履き替えながら、次々とテスト繰り返す、というのを一日中やっていたのだそうです。

ニュルブルクリンクのオールドコースは1周約20キロですから、3周で60キロ。それを仮に10セットやったとしたら600キロです。

しかも、タイヤメーカーのエンジニアは、スチールコード1度の違いがホントに判るの? という温度感だったそうで、コードの角度を変えていないものも混じっていたのだとか。

10年来のナゾが解けた!

気になるのはコードの角度が違うとどうなるのか? ですよね。ところが、インタービューでは「詳細は聞いてくれるな」という空気感が漂っていて、結局答えは教えてもらえませんでした。

以来、ボクはタイヤのスチールベルトの話が頭の隅に引っかかったまま約10年悶々と過ごすことになったのです。

ニュルブルクリンクのフランツガルテン(植物園)というジャンピングスポット。
ニュルブルクリンクのフランツガルテン(植物園)というジャンピングスポット。    斎藤聡

モヤモヤが晴れたのは、たまたまベルトの角度違いのタイヤをテストすることができたから。どんなたまたまなんだ? と思われるかもしれませんが、長いことこういう仕事をしているとこんなこともあるんですね。

スチールベルトの角度以外はコンパウンドもトレッドパターンもすべて同じ。走らせてみると、2枚のスチールベルトの角度の狭いタイヤはハンドルを切り出した時の応答がシャープ。角度が広いと応答が鈍くなるのです。でもグリップ限界はほぼ同じ。そんな結果でした。

グリップピークに至るまでの過渡特性に違いがあったのです。

前輪にベルト角度の狭いタイヤを装着すると、ハンドルの効きがよくなります。これをリアにつけてしまうと、クルマの動きが敏感になってしまうので、安定性が損なわれてしまうのです。

R33GT-Rは、245/45R17サイズを前後に装着するため、シャープな操縦性とリアの安定性が両立するベルト角度をテストしていたのです。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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