「ほとんどのEVはひどい」 米ルーシッドの革新を支える、リーダーの異色の考え方

公開 : 2025.02.28 06:45

航続距離800kmの高級EV「エア」を開発した米国のルーシッド。同社を率いてきたピーター・ローリンソン氏は、EVで最も重要なのは「効率性」で、ガソリン車との最大の違いもそこにあると主張する。

EVで最も重要なのは「効率性」

EVメーカーになるということ。「愛されると同時に、石を投げつけられても構わないのであれば、可能だ。ほぼ全員が意見を持っており、愛もあれば憎しみもある。わたしがやろうとしていることは、ジェノサイドではないかと考える人もいるだろう」

実際、米ルーシッド・モータースのピーター・ローリンソン氏が目指しているのは、世界で最も高効率なクルマを作ることだけだ。実現すれば、最高のクルマになるという。

 2021年9月、ルーシッドは米国の新工場で「エア」の生産を開始した。
2021年9月、ルーシッドは米国の新工場で「エア」の生産を開始した。

ルーシッドはEVを製造しているため、テスラのライバルとなることを目指す数多くの企業と並んで “EVメーカー” と呼ばれる。しかし、テスラの元社員であるローリンソン氏の話を聞くと、ルーシッドが他のどの企業とも大きく異なっていることがわかる。

AUTOCAR英国編集部は、彼が同社CEOの地位にあったときに話を聞いたが、彼は今週に入って辞任し、取締役会の戦略的アドバイザーとなることが発表された。CEOは交代するが、ルーシッドは技術や車両の開発方針を変えるつもりはない。

同業他社が主にEVシフトを排出量削減策として捉えているのに対し、ルーシッドはより良いクルマを実現するチャンスと捉えている。ローリンソン氏は、これまでのEV開発がいかに的外れであったかを強調し、EVの捉え方を根本から見直す必要があると主張する。その出発点は、EVの最も重要な部分とする「効率性」だ。

「航続距離を効果的に伸ばすには2つの方法がある。1つはバッテリーサイズ、もう1つは効率性だ」と彼は言い、効率性という概念が世間に根本的に誤解され、過小評価されていることについて疑問を投げかける。

「クルマの効率性を高めることで、世界のエネルギー消費量を減らすだけでなく、バッテリー資源や鉱物資源の消費量も減らすことができる」

バッテリーはEVで最もコストがかかる部分であるため、将来的にはEVの価格も下がるだろう。「このような先駆的なアプローチを取っているのは、本当にルーシッドだけだ」とローリンソン氏は主張する。

EVとガソリン車の違いとは

「ルーシッド・エア・ピュア(セダン)は文字通り、世界で最もエネルギー効率の高いクルマだ。燃料の種類を問わず、自動車の130年の歴史の中で量産されたどのクルマよりも少ない燃料で、A地点からB地点まで移動できる。これほどまでに先進的な技術を持つメーカーは他にない」

この驚くべき効率性を実現しているのは、電気モーターとインバーターを同じ小型ユニットに収めた独自の設計である。

ルーシッドはバッテリー以外のパワートレインをほぼ自社で開発・生産する。
ルーシッドはバッテリー以外のパワートレインをほぼ自社で開発・生産する。    ルーシッド

しかし、EVに関する主要な話題は航続距離であり、一般的にそれを左右する要因はバッテリーのサイズとみなされている。効率を無視することは「本質を見失っている」うえに「非常識」だとして、ローリンソン氏は苛立ちを隠さない。

「効率が良いからこそ、航続距離が伸びるのだ。途方もなく大きなバッテリーパックを搭載しなくても、800kmの航続距離を実現できる。そして、バッテリーパックがそれほど大きくないため、軽快でハンドリングが良く、乗り心地も快適で足元も広くなる」

「効率性は、根本的にクルマを良くするものだ。問題は、ガソリン車で考えた場合、効率性によって得られるのはガソリン購入コストの削減だけだという点だ。それは、クルマが良くなるのではなく、ただガソリン代が安くなるだけだ」

「(燃費が)10km/lのクルマと20km/lのクルマを比べると、20km/lのクルマは性能が劣っている。これがEVとガソリン車の違いだ」

「ガソリン車に乗るクルマ好きの多くは、高性能であるがゆえに非効率な(燃費の悪い)クルマを欲しがる。最上位モデルのエア・サファイアが他車を圧倒する理由は、その効率性にある。パワーを失うことなく、すべての電力をタイヤの回転エネルギーに変える。効率性こそが性能を生み出すのだ」

「これがガソリン車との違いだ。ガソリン車の場合、効率を高めると性能は低下する。EVはその逆で、効率を高めれば高めるほど性能も高くなる。なぜなら、電力を運動エネルギーに変えてタイヤを動かす際に損失がないからだ。つまり、クルマについて誰もが学んできたことはすべて間違っているのだ」

「40km/lの燃費を達成したクルマがある、と言われたら、『ブルーモーションの(フォルクスワーゲン)ゴルフか』と思うだろう。しかし、わたしは(メルセデス・ベンツSクラスでそれを達成したのだ。そんなの嘘っぱちだと言うかもしれないが、文字通り、これがまさにエアで実現していることなんだ。車内空間に関してはSクラスのロングホイールベースに匹敵し、燃費は62km/lだ」(注釈:この数値は、米国の環境庁が定めたMPGeによるもので、EVの電気消費量をガソリン車の燃料消費量に換算したもの。)

「誰もこのことを記事にしないのは、あまりにも突飛で信じられないことだからだ。3年前に航続距離が800kmになると発表したとき、人々はわたしが嘘をついていると言った。それが現実になると、今度は大量にバッテリーを詰め込んだと言われた」

「問題は、ライバル車よりもはるかに優れているため、人々が理解できないことだ。これはわたしが主張している数字ではなく、政府が発表した数字であり、独立機関によって検証され、裏付けされた数字なのだ」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    役職:編集者
    自動車業界で10年以上の経験を持つ。欧州COTYの審査員でもある。AUTOCARでは2009年以来、さまざまな役職を歴任。2017年より現職の編集者を務め、印刷版、オンライン版、SNS、動画、ポッドキャストなど、全コンテンツを統括している。業界の経営幹部たちには定期的にインタビューを行い、彼らのストーリーを伝えるとともに、その責任を問うている。これまで運転した中で最高のクルマは、フェラーリ488ピスタ。また、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIにも愛着がある。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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