「ほとんどのEVはひどい」 米ルーシッドの革新を支える、リーダーの異色の考え方

公開 : 2025.02.28 06:45

バッテリーに関する "誤解"

環境への影響に関して、ローリンソン氏は「効率が2倍になれば、バッテリーは半分で済む。すなわち、リチウム鉱山、コバルト鉱山、ニッケル鉱山の必要性が減る」と述べている。

モーターはルーシッド独自で製造しているが、バッテリーはLG化学、パナソニック、サムスンなどの提携先から調達している。モーター技術に投資し、自社開発することを選んだのは、効率性向上を実現できると確信しているからであり、効率性をさらに高めるための研究プロジェクトも進行中である。

ピーター・ローリンソン氏は全固体電池の実用化に悲観的な見方を示している。
ピーター・ローリンソン氏は全固体電池の実用化に悲観的な見方を示している。

ローリンソン氏は次のように説明する。

「誰もがバッテリー効率(battery efficiency)について語っているが、バッテリー効率などほとんど存在しない。これは誤称である。おかしい。まるで『ガソリン効率』と言っているようなものだ。『シェル(のガソリン)の方が低燃費か? それともアラムコの方が低燃費か?』と。そのようなありえないことを、我々は口にしているのだ」

「バッテリーに関しては、間違った言葉を使うのをやめた方が良い」

全固体電池は、小型で高密度、高速充電が可能なことから、長らく未来のEVに欠かせない技術として広く考えられてきた。しかし、ローリンソン氏は、全固体電池の「量産化」はまだ誰も実現できず、研究室での少量生産にとどまっているため、そうはならないだろうと「悲観的」な見方をしている。

「実現しないとは言っていない。可能性はあるし、実現すれば万々歳だ。それを当社の効率性と組み合わせれば、バッテリーの重量を半分にできる。しかし、依然として重要なのは効率性だ。全固体電池の実現が約束されているが、決して実現することはない。なぜなら、誰も大量生産できないからだ」

ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)の代替品として低価格EVに採用されつつあるリン酸鉄リチウム(LFP)については、より楽観的な見方を示している。

ローリンソン氏は「LFPは重量があり、蓄えられるエネルギーも少なかったため、低コストだが航続距離は短かった」と言うが、エネルギー密度の向上と急速充電への耐性により、採用には「かなり前向き」になっている。

「ほとんどのEVはひどい」の理由

世界的にEVの販売が伸び悩んでいることについて、ローリンソン氏は特に驚いてはいない。「なぜなら、そのほとんどがひどいもの(many of them suck)だからだ。申し訳ないが、これは真実だ」と彼は言う。そして、多くのEVは「航続距離が非常に短く」、「ローテクで、ありふれた既製部品」でできていると指摘した。

さらに、エアのように驚異的な航続距離がなければ、「(公共の)充電インフラのアクセス性、操作性、信頼性」の問題にも直面するという。

ルーシッドは航続距離700km超の新型SUV「グラビティ」で市場を揺るがそうとしている。
ルーシッドは航続距離700km超の新型SUV「グラビティ」で市場を揺るがそうとしている。    ルーシッド

「素晴らしい充電インフラがあれば、それほど長い航続距離は必要ない。しかし、そうでない場合は航続距離が必要だ。現在、信頼できるインフラが整っておらず、航続距離の長いクルマも十分にはない。だから、ひどいことになっている」

人々は「急速充電に対して近視眼」になっており、自宅に車庫やガレージのない人でも夜間にEVを充電できる路上充電にもっと目を向けるべきだ、とローリンソン氏は主張する。

「わたしは、これは非常に重要なことだと考えている。クルマを走らせるのに必要な電力量を見れば、そこに問題はないと思う。人の移動距離は平均1日あたり30~50km程度で、誰もが長距離通勤をしているわけではない」

「ルーシッドは現在、1kWhあたり8kmの走行が可能だ(米国のテスト基準は、欧州で使用されているWLTPテストよりも厳しい)。30km走るために必要なのは、たったの4kWhだ」

「急速充電について考える必要はないと思う」

「電気料金が安くなる夜間に充電すべきだ。発電所にとってもその方が良い。なぜなら、1日の中で発電量が大きく増えたり減ったりしないからだ。わたしは、自宅や路上で夜間にゆっくり充電できるAC充電のインフラ整備を強く支持している」

ここで、EVの価格の問題が浮上する。

「(EVが高価であることは)驚くことではない」とローリンソン氏は言う。「自動車メーカーがバッテリーサイズに頼って航続距離を伸ばそうとしているからだ。ルーシッドは決してそうはしない。航続距離は、技術を通じて効率性を向上させることで実現する」

「もしバッテリーサイズに頼って航続距離を伸ばすという路線を取るなら、航続距離を伸ばす唯一の方法はバッテリーを多く搭載することだが、そうなるとコストが大幅に増大する」

「どうすればそのようなクルマを低価格にできるだろうか? 不可能だ。高価なバッテリーをたっぷりと詰め込まなければならないからだ。これが問題なのだ。まったく誤った考え方だ。当社の技術は、バッテリーコストをかけずに航続距離を実現する」

「そして、これは今後数年のうちに実現できるだろう。今はメルセデスやポルシェと競合する高級車を販売しているため、まだ人々の目に留まっていない。もっと手頃な価格のクルマが登場すれば、明らかになるだろう」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    役職:編集者
    自動車業界で10年以上の経験を持つ。欧州COTYの審査員でもある。AUTOCARでは2009年以来、さまざまな役職を歴任。2017年より現職の編集者を務め、印刷版、オンライン版、SNS、動画、ポッドキャストなど、全コンテンツを統括している。業界の経営幹部たちには定期的にインタビューを行い、彼らのストーリーを伝えるとともに、その責任を問うている。これまで運転した中で最高のクルマは、フェラーリ488ピスタ。また、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIにも愛着がある。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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