VW I.D. Rパイクスピーク コースレコード樹立なぜできた? 背景とは
公開 : 2018.08.05 10:10
狙いどおりにパイクスピーク最速タイム更新を達成したフォルクスワーゲンI.D. Rですが、その挑戦は決して簡単なものではなかったようです。高度だけでなく、刻々と変わる気象条件への対応も求められるこのコースに、チームはどのように立ち向かったのでしょうか?
もくじ
ー 狙うは最速タイム セッティングが重要
ー 突然の進歩 コースが運命を握る
ー 運命の朝 予期せぬ待機
ー 7分57秒148 EVの勝利
ー さらなる記録更新も 決めるのはパイクスピーク
ー 番外編:ベントレー・ベンテイガW12 量産SUVクラスのコースレコードを更新
狙うは最速タイム セッティングが重要
6月22日金曜日の午前5時30分過ぎ、パイクスピークの3895mに位置し、トップセクションの始まりを告げるデビルズプレイグラウンドという名の駐車スペースの上空には、流れる雲の間から輝く朝日が顔を覗かせている。そして、この朝の静けさにはそぐわない甲高いサイレンとともにその姿を現したのが、この19.99kmのトップセクションで最後の練習走行を行うフォルクスワーゲンI.D. Rパイクスピークだった。
フロントをトップセクションに向けたロメイン・デュマは、スタートフラッグが振り下ろされると、われわれの理解を越えるスピードで、未来的な電気モーターのサウンドとともに視界からあっという間に姿を消した。これでお分かりだろう。このクルマは156のコーナーをもつパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムで、EVコースレコードの8分57秒118を更新するだけでなく、セバスチャン・ローブがもつ8分13秒878という最速記録をも破ろうとしているのだ。
デュマにもそれは分かっていた。フォルクスワーゲン・モータースポーツ・チームが、パイクスピークの数カ月前にこのコロラドの山中に初めてやって来た時、状況はそれほど順調には見えなかった。1100kgを下回る車重に、681psの電動パワートレインを組み合わせたこのクルマを、上手くコントロールすることができないでいたのだ。
ツインモーターはその能力を発揮し、チームはバッテリー性能にも満足していたが、依然としてバッテリーをいくつ積むべきか、その答えを見つけ出せないでいた。I.D. Rパイクスピークで重要となるのは、デュマのアタック中、必要なパワーを安定して供給できることであり、それは特に最高到達点近く、内燃エンジンが薄い空気に苦しみ始める地点でこそ求められる性能だった。
パワートレイン自体は狙い通りの性能を発揮していた。I.D. Rの問題は、ターマックの荒れた路面ではサスペンションがボトムアウトするために、その反応に優れたハンドリングと、瞬時に発生する豊かなトルクを上手く活かすことができないということだった。「順調とはいえませんでした」とデュマも認めている。