新旧ブガッティ対決 ドイツ産ヴェイロン vs イタリア産EB110 回顧録
公開 : 2019.01.05 07:10
VWらしいマナーのヴェイロン
この個体は長期にわたって保管されていたので多少塗装が色褪せており、さらにオーナーが最近手に入れたオモチャであるという遠慮もあって、本気で走らせるのは少々ためらわれたのだが、その範囲でも網膜が追いつかないほどの速さで走れるクルマだということに疑問の余地はなかった。そしてそういう速度域でも、四輪駆動のおかげで盤石の安心感が得られるのである。
しかし、本気で時空間を蹂躙するようなクルマを求めているのなら、それはヴェイロン以外にありえない。このクルマが地平線めがけて突進するエネルギーは、さながら50m幅の大瀑布といったところだ。7段DSGのトランスミッションをオートのままにしておいても、その激烈さには一切妥協がない。そして、走るという行為に含まれるすべてがあまりにも簡単なのだ。
ヴェイロンはVWゴルフと同じように行儀がよく、安心して走れるクルマである。このクルマに乗るうえでの最大の困難といえば(これがけっこう大変なのだが)、美しく切削仕上げされたアルミ製スロットルペダルをところかまわず思いっ切り踏み込みたくなる誘惑を断固として抑えておく理性をいかに保持し続けるかだろう。
曲がりくねった郊外のカントリロードにヴェイロンを持ち出し、走らせてみると、この怪物のようなクルマを御することではなく、もっとパワーを引き出したくなる魅惑に抗することこそが大変なのだと気がついてまず驚く。
ヴェイロンのシャシーが予想をはるかに超える懐の深さを持っているからである。これは四輪駆動と強力な(しかし決して度を超えた介入はしない)ESPが、路面に伝えられる限界を超えないよう、常にトルクを監視しているからにほかならない。