【スーパーワゴン対決】後編 制御に難ありのポルシェ 万人向けのアウディ 熱い走りのメルセデス
公開 : 2021.09.04 21:05 更新 : 2021.09.14 05:17
優秀なシャシーのパナメーラ
もしかしたら、E63 S最大のサプライズは、いまやサウンド面のパフォーマンスでほかを圧倒するヴォーカリストではなくなったということかもしれない。ガソリンパティキュレートフィルターの導入で、AMG製V8のトレードマークともいえる破裂音の類が多少なりとも影を潜めてしまったのである。
では、もっともやかましいクルマはどれになったのか。じつは、もっとも静かな側面も見せるプラグインハイブリッドのポルシェがそれなのだ。
ステアリングホイール上のモードスイッチをスポーツかスポーツ+に入れると、571psのV8は、パワフルなソウルシンガーの歌声とナスカーのエンジン音をミックスしたようなサウンドを張り上げる。
ハイブリッド化によって、パナメーラがソフトになったのではないか、などという考えはエグゾーストが発する轟音にかき消される。それでいて、136psの電気モーターはたしかに強烈な動力性能に貢献し、RS6やE63 Sと同等の速さを発揮する。ただし、ライバルたちを圧倒するものではない。
このハイブリッドシステムの完成度は、並外れて高い部類に数えられ、変速がなめらかで速いDCTとの協調もみごと。ところが、純粋なICEユニットのような瞬時のレスポンスには欠け、スロットルは微調整の効くアナログな操作系より、スイッチを思わせるフィーリングだ。
同じことは、カーボンセラミックブレーキにもいえる。パワフルだが、回生から摩擦への移行の制御が、それに気づかないほどうまくはできていない。フィールやプログレッシブさに関しては、メルセデスのブレーキがベストだ。
RS6やE63 Sのあとでパナメーラに乗り、連続するコーナーを駆け抜けてみると、ポルシェのステアリングのクオリティが光る。切りはじめのフィールはすばらしく、レスポンスの具合の調整も秀逸だ。後輪の操舵システムは、パナメーラの巨体をRS6のそれよりナチュラルな感覚でコーナーへと誘う。
もちろん、グリップと安定性には余裕があり、コーナー脱出時にはリア寄りの駆動力配分が心地いい。ただし、本気で攻めると、パナメーラの重さの影響が顔をのぞかせはじめる。今回の3台はどれも軽量といえないクルマばかりだが、このポルシェの2365kgというウェイトはとくに重い。
それを思い知らせるのが、唐突な路面の隆起や大きな窪み、さらにはタイトなコーナーで、物理法則を否定しようとする数々のトリックが、ごく小さな綻びを露呈してしまう。
勝敗の決め手は走らせ甲斐
今回のパナメーラにおけるもうひとつの問題が、14万2350ポンド(約1993万円)というポルシェの値付けだ。9万6910ポンド(約1357万円)のアウディや10万1565ポンド(約1422万円)のAMGより4万ポンド(約560万円)以上高い。カンパニーカーユーザーならば、PHEVの低い税率で少なからぬ穴埋めもできるが、そもそもこれはそういう需要をターゲットにしたクルマではないだろう。
その高い価格とほかより低い実用性、そして本気で走らせたときに感じる切れ味の不足により、パナメーラは3位にランキングする。電動化された未来を予見させるものとしては悪くないが、今回はライバルたちを下すことができなかった。
もしも日々の暮らしに抵抗なく取り入れられて、それでいてスーパーカーをも脅かすようなクルマがほしいなら、アウディが一番だ。もっとも快適で、肩肘張らずに乗れるが、その動力性能やアジリティはRS6と聞いて思い浮かべる以上のものがある。客観的に判断すれば、これがベストな選択だ。
しかし、われわれの判断基準では、RS6に金メダルを贈ることにはならない。かなりトップに肉薄してはいるのだが。
E63 Sのほうが手間はかかる。とはいえ、馴染むのは通常のEクラスと同じくらいイージーだ。そして、努力のし甲斐があるクルマだ。
とてつもなく速いという点ではRS6に肩を並べるが、運転はより楽しく、走らせるプロセスに自分が加わっているという感覚が得られる。さらに、ワゴンとしての基本性能がベストということも加味すれば、この結果に疑いの余地はない。