フォルクスワーゲンID.4 詳細データテスト 穏やかな出力特性と操縦性 遅くないが刺激は足りない
公開 : 2021.11.06 20:25 更新 : 2021.11.08 06:37
操舵/安定性 ★★★★★★☆☆☆☆
どのメーカーでも、スポーティなEVをはじめて造るチャンスは、当然ながら1回しかない。となれば、造り手としては、それを記憶に残るクルマにしたいと思うのが人情というものだ。
ID.4 GTXは不幸なことに、そういうものにはなれなかった。グリップは上々で、コーナリングバランスは十分にニュートラル。DCCことアダプティブダンパーを装着すれば、ボディの無駄な挙動もほとんど出ない。コントロールが効き、全体的になめらかで、おまけに落ち着いた動きをする。
スポーツモードを選んでいてさえ、スロットルペダルのダンピングは大きく、前後独立モーターがもたらす運動性能は、アジリティよりもスタビリティを改善するために使われる。
おそらく、ファミリーカーとしてはそうあるべきだ。しかし、感動のないバランスのせいで、路面をしっかり捉えるがダルい、前輪駆動的な走りになってしまっている。しかも、そこにスロットルによるアジャスト性はない。
通常のID.4がみせる、濡れたコーナーを脱出する際にきわめてかすかなオーバーステアを発生させる傾向は、知る人ぞ知る運動面の楽しい個性だが、それはフロントモーターの追加で消えている。そして、それなりのB級道路でペースを上げると、GTXはますます前輪優勢だと感じられるようになる一方だ。
それゆえ、スタビリティでは高得点を取れるGTXは、ハンドリングで評価を下げる。より正確にいえば、オートカーの考える「楽しめるハンドリング」という文脈においてだが。
ローダウンサスペンションに組んだスプリングとダンパーの専用設定されたレートは、天候を問わずすばらしく頼れるフィールをもたらしている。トラクションは絶対的だ。もっともそれは、サスペンションやタイヤの優秀さよりも、控えめなトルク特性によるところが大きいのだが。
ステアリングの手応えは増していて、通常モデルのフワフワした操舵感より好ましい。しかし、走りにのめりこめるかどうかという点においては、このクラスでベストな評価を与えたマスタング・マッハEに大きく水を開けられている。それは、マッハEが後輪駆動でも4WDでも変わらない、厳然たる事実だ。