フォード・マスタング・マッハE 詳細データテスト 加速も操縦性も注文あり バッテリーに改善の余地

公開 : 2022.05.07 20:25  更新 : 2022.06.21 14:20

走り ★★★★★★☆☆☆☆

マッハE GTはアメリカ生まれのクルマだということが、今回のテストでは残念な形で露呈してしまった。フォードの公称値では、0-97km/h加速タイムは3.7秒ということになっている。しかし、北米では1フット・ロールアウトという計測方法が一般的で、クルマが動き出してだいたい30cm程度進んだところで計測がスタートするのだ。

テスラをはじめ、同じ方式で計測しているブランドはある。しかし、われわれとしてはゼロスタートは厳密にゼロからはじめるので、このクルマはスーパーカー並みのタイムを記録できなかった。

加速性能でライバルに劣るところを見せたが、その理由はいくつかある。公称値がアメリカ車特有の計測方法によるものだったこと、ウェイトが重いこと、そしてバッテリーの冷却性能不足をカバーするリミッターの存在だ。
加速性能でライバルに劣るところを見せたが、その理由はいくつかある。公称値がアメリカ車特有の計測方法によるものだったこと、ウェイトが重いこと、そしてバッテリーの冷却性能不足をカバーするリミッターの存在だ。    MAX EDLESTON

0-97km/h加速は、往復した平均を出しているが、そのタイムは4.2秒、48〜113km/hは3.5秒だった。たしかに十分速いといえる数字で、日常的に使う速度域からペダルを踏み込むと、一気にトルクが全開になるような感覚だ。

とはいえ、バッテリーがピークパワーを保てる時間には限界がある。アメリカで行われたテストの結果を受けて、フォードは、フルスロットルでGTのバッテリー冷却性能が対応できるのは5秒間までで、それ以降はパワーとトルクを電気的に制限するのだとコメントした。

それが如実に現れているのが、走行中のキックダウン加速を試したテスト結果だ。80〜113km/hに対して、113〜145km/hはほぼ2倍の時間がかかっている。空気抵抗の増大だけでは説明できないタイム差だが、出力リミッターが作動しているのなら納得できる。

日常使いに関する訴求力に、この出力制限が与える影響について、おおげさなことが言えれば、話は簡単に済むだろう。しかし、日頃の使用環境で、5秒以上フルパワーを使えるような機会はめったにないはずだ。

今回はテストコースでの全開走行、なかでもサーキット走行の際にはリミッターの存在を感じた。バッテリーが電力供給の制限をかけるまでに、このクルマに望みうるもっとも激しいパフォーマンスを発揮できたのは、ほんの数ラップだったのだ。

しかし、普段使いでそうした走らせ方はまずできないので、リミッターに気づくことも決してないはずだ。とはいえ、競合車にもっとスタミナがあるとすれば、このクルマのデメリットに目をつぶることはできない。

公道走行では、瞬間的に発揮されるかなりマッチョなパフォーマンスに対して、不利にはたらく問題点はほとんどなかった。そんななかで気になったのは、ややふわついたブレーキペダルのタッチだ。そのせいで、低速域での速度調整が思うようにいかないところがあった。

さらにいうなら、もっともスポーティなモードのアンテイムドを選んだ際に発するデジタル合成のエンジン音は、不自然さが気になった。また、走行中でも簡単にエネルギー回生レベルを調整できるパドルやスイッチがほしかった。

そうしたもろもろを踏まえて評価するならば、このマッハE GTは、速いEVとして最高水準に数えられるほど入念な仕上げがなされたとはいえない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 執筆

    イリヤ・バプラート

    Illya Verpraet

    役職:ロードテスター
    ベルギー出身。AUTOCARのロードテスターとして、小型車からスーパーカーまであらゆるクルマを運転し、レビューや比較テストを執筆する。いつも巻尺を振り回し、徹底的な調査を行う。クルマの真価を見極め、他人が見逃すような欠点を見つけることも得意だ。自動車業界関連の出版物の編集経験を経て、2021年に AUTOCAR に移籍。これまで運転した中で最高のクルマは、つい最近までトヨタGR86だったが、今はE28世代のBMW M5に惚れている。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    関耕一郎

    Kouichiro Seki

    1975年生まれ。20世紀末から自動車誌編集に携わり「AUTOCAR JAPAN」にも参加。その後はスポーツ/サブカルチャー/グルメ/美容など節操なく執筆や編集を経験するも結局は自動車ライターに落ち着く。目下の悩みは、折り込みチラシやファミレスのメニューにも無意識で誤植を探してしまう職業病。至福の空間は、いいクルマの運転席と台所と釣り場。

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