カーボンナノチューブでCO2排出量を削減する方法 軽量化に貢献、強度は900%アップ

公開 : 2023.06.06 06:25

EVバッテリーのケーシングや水素燃料電池車の水素タンクに、軽量かつ高強度の最新カーボン技術を用いる開発が進められています。軽量化だけでなく、素材特性を利用した性能・寿命の改善も期待されています。

車両の軽量化に 性能向上も期待

ナワ・テクノロジーズ社は、二酸化炭素排出量の削減に向けたカーボンナノチューブ技術の汎用性を示している。

同社が最近採用した「ナワステッチ」と呼ばれるこの技術は、従来のカーボンファイバー(炭素繊維)を強化することで、耐衝撃性を900%向上させながら、重量を20~30%削減するものだ。

従来のカーボンファイバーをさらに強化する最新技術の実用化が進んでいる。
従来のカーボンファイバーをさらに強化する最新技術の実用化が進んでいる。

すでにスポーツ自転車のホイールリムの素材として実用化されており、現在EVバッテリーのケーシングや燃料電池車の水素貯蔵タンクの製造も目指している。また、燃料電池の内部にも使用することで、性能の向上や寿命の延長を図ることができるという。

軽量化だけでなく、この素材の電気伝導性を利用して、ケーシングを一体型の発熱体とし、バッテリーの熱管理システムを簡素化する計画もある。

ナノチューブは軽量な強化材料であることに加え、リチウムイオンバッテリーをはじめとするさまざまなバッテリーの負極の基礎としても適している。

ナノチューブは、垂直配向カーボンナノチューブ、略してVACNTとして知られている。薄い下地(基板)上に成長し、高さは5~100ミクロン(ミクロンは100万分の1メートル)、1平方センチメートル当たり約1000億本の分子レベルの森のようなものである。

カーボンの要素は、カーボンファイバーを織った布を樹脂で何層にも貼り合わせて構成されたもの。その弱点は、衝撃による損傷や振動によって樹脂が破れ、その層全体に亀裂が入ることが挙げられる。今回のナワ・テクノロジーズ社は、カーボンファイバーマットの層の間にナワステッチ層を加えることでそれらを結びつけ、そこからさらなる強度を得ている。

実際には、ナノチューブ層は薄いフィルムなので、部品の製造時にカーボンファイバーマットと同じように扱うことができる。薄いので重量は微々たるものだが、必要なカーボンファイバーや樹脂の量を減らすことができ、強度も増す。

この素材は、EV用バッテリーケースで使われるアルミニウムベースと樹脂製上部構造に代わって、より強く、より軽く仕上げるために開発されている。

また、チューブは縦に並んでいるため、横方向には電気抵抗があり、電流を流すと発熱する。この性質を利用して、バッテリーの温度管理を行い、EVの航続距離の向上も狙っている。

燃料電池車や水素エンジン車用の圧縮水素貯蔵タンクの軽量化・高強度化にもナワステッチが利用されている。このタンクは現在、ラボテストの段階にあり、2024年には顧客に納品される予定だ。

ナワ・テクノロジーズ社はまた、プラチナ触媒材料のベースとして、水素燃料電池に同社のVACNT技術を使用する研究も進めている。ナノチューブが粒子を所定の位置に固定することで、時間の経過とともに粒子が凝集するのを防ぎ、燃料電池の出力と寿命を5倍にできるという。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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