【高級サルーン対決】後編 デジタル偏重に疑問 要求に届かぬ洗練性 今やSクラスでは満たされない
公開 : 2021.05.22 21:05 更新 : 2021.07.12 18:49
先進的なデジタルデバイスと、質感の高い素材を用いたSクラスの室内ですが、後者は流石にベントレーの敵ではありませんでした。そして、操縦性や走りの洗練性でも形勢逆転はならず。新たな時代に乗り遅れた印象を拭えません。
デジタル化がさらに進んだSクラス
外から眺める限り、Sクラスは高級感でフライングスパーにすっかり水をあけられている。ところが車内に入ると、このメルセデスにはマテリアルのリッチさが十分すぎるほど見出せ、スペースもかなり広い。デジタルディスプレイの多さも顕著で、これはこの10年ほどでテスラに向いたユーザーの目を引き戻す狙いも感じられる。広々とした開放感はベントレーよりやや上で、視認性やトランクの広さでも優っている。
Sクラスにはビジネス向けだと思えるところもあり、道楽品的な感覚はベントレーのほうがはるかに強い。その違いは明らかだ。Sクラスのほうがまじめな印象で、目を引く華麗さでは下回る。ネクタイとジャケットを身に着けてSクラスに乗る人はかなり多いだろうが、正装しないと乗れないように感じるクルマではない。
デジタル的な改良が、すべてそこにある価値を持つわけではない。たとえ、それを装備することが、OTAアップデート時代の高級車に欠かせないものだとしてもだ。大型化されたARヘッドアップディスプレイや3Dデジタルメーターは、必要か不必要かを問わず、すべてのインフォメーションを絶えず投げかけてきて、ときにそれを追う目が混乱するのだ。
ダッシュボードには、12.9インチのスクエアなタッチ式ディスプレーが鎮座するが、そのせいで周辺の操作系が収まりの悪い位置にずらされている。しかも、画面が斜めに寝かされているので、ウインドウから差し込んだ光を、ドライバーの顔へダイレクトに反射させてしまう。どれも、Sクラスを扱いやすくしてくれるのではないところで驚かされる。
明らかにメルセデスは、Sクラスのユーザーが、ほぼいかなる犠牲を払ってもより多くのデジタル技術がほしい人種だと考えているようだ。公平にみれば、このセッティングも使ううちに慣れる。運転中も、方向を示す矢印やホログラフ的表示に惑わされることはない。タッチ操作に多くが依存するのにも馴染めるだろう。自分ならば積極的に選びたくはないが、やむをえず使いこなしていくことはできなくないはずだ。
室内の質感に決定的な差
使い勝手に決定的な不備を覚えなかったためだろうか、テストを終えてみて、キャビンの新たなテクノロジーはどれも、このSクラスの評価を下げるものとは思えなかった。フライングスパーと比べるなら、キャビンで見劣りするのはマテリアルのほうだ。ベントレーの、ローレット加工された鏡のようなクロームの送風口やスイッチなどは、じつに見栄えがいい。
温度感もテクスチャーもソリッドさも、なかなか得がたい妙なる手触りを生んでいる。レザーはみごとに調えられ、ほかではいまどきリアルなウッドやクロームを使わないことがほとんどの場所にも、いつもながら華やかなフィニッシュが施されている。
たとえドリンクキャビネットのウォールナットパネルがお気に召さなくても、ほかの選択肢がふんだんに用意されている。クルマの外も中も、ルックスも手触りも、その高級感にスキはない。
対するSクラスも高級感はあるが、比較にならない。個別に見れば、その質感に文句をつけるユーザーはまずいないはずだ。しかしベントレーに比べると、レザーはふっくらしていないし、使っている範囲は狭い。アンスラサイトカラーでオープンポアのポプラウッドは、目新しい素材ではあるが、正直いって期待外れだった。ダッシュボードに海苔を貼ったみたいなのだ。
それ以外の広い範囲には、指紋のつきやすいピアノブラックのパネルが張られ、プラスティックのクローム風トリムで飾られる。素材としては、Aクラスの上級グレードと同じものかもしれない。だからといって不満を覚えることはないのだが、ベントレーを見たあとではどうにも分が悪い。まるでメルセデスが、ユーザーの指先がタッチパネル操作のしすぎで麻痺してしまうので、手触りにこだわっても意味がないと考えたのではないかと疑いたくさえなる。もったいない。